スキップしてメイン コンテンツに移動

投稿

8月, 2025の投稿を表示しています

TVドラマ「西遊記」のエンディングテーマ曲 ゴダイゴ「ガンダーラ」ユートピアを探して

 ──人は、なぜ理想郷を夢見るのだろうか。  少年の頃からその問いが、私の胸の奥で小さく鳴り続けていた。  ある日、旅の途中で出会った白髪の僧が語った。 「はるか西の彼方、雪山を越えた谷に“ガンダーラ”という地がある。そこでは人が争うことなく、愛と調和の中で生きている」  その言葉は、乾いた大地に一滴の水を落とすように、私の心を揺さぶった。  私はそれを信じ、歩き始めた。砂漠を越え、河を渡り、星々に導かれるように旅を続けた。だが歩けば歩くほど、答えは遠ざかるように思えた。  ある村に辿り着いたときのことだ。  そこでは人々が収穫を奪い合い、互いに怒号を浴びせていた。私は彼らに僧の語った「ガンダーラ」の話をした。 「そんな場所、本当にあるのか?」  男たちは笑った。だが、一人の少女だけが瞳を輝かせて言った。 「もしそんな国があるなら、私も一緒に探してみたい」  少女の名はリナ。彼女は家族を争いで失い、村に居場所を持たなかった。私とリナは共に旅を続けることになった。  雪深い峠を越える夜、星空を見上げながらリナが尋ねた。 「ねえ、本当にガンダーラはあると思う?」  私は言葉に詰まった。胸の奥に小さな疑念があったからだ。けれど、リナの冷えた手を握りながら答えた。 「たとえ遠くても、人が心から求めるなら、きっとあるはずだ」  それは彼女に向けた言葉であると同時に、自分自身への誓いでもあった。  やがて私たちは、果てしなく広がる草原に出た。そこには争いも憎しみもなく、遊牧民たちが互いに助け合い、歌を口ずさみながら生きていた。リナは微笑み、私に囁いた。 「ここが……ガンダーラなのかもしれない」  しかし彼らに尋ねると、「ガンダーラ? 聞いたことはない。ただ、私たちは助け合わなければ生きられないから、自然とこうして暮らしているだけだ」と答えた。  その時、私は悟った気がした。  理想郷は、遠い彼方の幻ではない。人が互いを思いやる心を持つとき、そこがすでに“ガンダーラ”となるのだ。  旅を続ける私とリナの瞳には、もう以前のような焦りはなかった。  それでも人は問い続けるだろう。  ──ガンダーラはどこにあるのか、と。  けれど私は今、こう答えることができる。 「それは君の心の中に、そして私たちが作り出す明日にあるのだ」と。 ...

エルヴィス・プレスリー 物語「ポーク・サラダ・アニー」 Elvis Presley(Polk Salad Annie)

エルヴィス・プレスリーのカバー・バージョン「ポーク・サラダ・アニー」(Polk Salad Annie)は、トニー・ジョー・ホワイトが1968年に発表した楽曲。 「南部の貧しい女の生活」アメリカ南部の文化・貧困・力強さ https://youtu.be/OaAHHJ-6TDE 物語:ポーク・サラダ・アニー アメリカ南部の、じっとりとした湿気がまとわりつく夏の日。 ぬかるんだ小道の先に、アニーの家があった。家といっても、木の板を打ち付けただけの小屋のようなものだ。屋根は傾き、雨が降れば水が染みこみ、床板の下ではネズミが走り回っていた。 アニーの母は一日中ベッドに寝転び、煙草を吸いながら窓の外をぼんやりと眺めていた。父は近所で「働かない男」と有名で、朝から酒瓶を手放さない。兄弟たちはといえば、町に出ては物を盗み、警察に捕まっては留置所に送られる。 そんな家族の中で、まともに動いていたのはアニーただひとりだった。 彼女はまだ若かったが、痩せた体に刻まれた筋肉は固く、日焼けした肌は南部の太陽の下で鍛えられた証だった。 「今日も食べ物を探さなきゃ」 そう呟くと、アニーは籠を手に野原へと出かける。 そこに群生しているのは、「ポーク草(ポークウィード)」と呼ばれる野草だ。生で食べれば毒があるが、何度も茹でこぼせば食用になる。南部の貧しい家々では、それを「ポーク・サラダ」と呼んで常備菜にしていた。 アニーは素早い手つきで葉を摘み取り、籠に入れていく。指先には茎の汁が染み込み、緑色のしみがつく。だが彼女は気にしない。生きるためには、選んでいられないのだ。 川辺を歩けば、アリゲーターの姿が見える。大きな体で水面を滑るように進むそれを見つけても、アニーは怯まなかった。 「邪魔するなら、仕留めてやる」 彼女の目は鋭く光る。村の誰もが「アニーはワニすら素手で倒す」と噂していた。それは誇張かもしれないが、彼女のたくましさを示す言葉として広まっていた。 夕暮れが迫る頃、アニーは籠いっぱいのポーク草を抱えて家へ戻る。母は相変わらず横たわり、父は酔いつぶれている。家の中は荒れていたが、アニーはため息ひとつつかず、黙々と鍋に水を張り、草を茹で始めた。 何度も茹でこぼすたびに、苦い匂いが立ちのぼる。 「これで少しは毒が抜けたはず」 そう確認して、アニーは皿に盛りつける。味は決して豊かでは...