https://youtu.be/TCpAWRCej5U 僕たちはスイスのモントルーにやってきた。 澄んだ空気と、ジュネーブ湖のきらめく水面。 湖畔の町に、移動式のレコーディングスタジオを持ち込んだのは、 たったひとつの目的のためだった。 ――新しいアルバムを作るために。 でも、時間はあまりなかった。 レコーディング場所に選んだのは、モントルー・カジノ。 そこには立派なコンサートホールがあり、最高の音を録れるはずだった。 だけど、その日、カジノではフランク・ザッパとマザーズのライブが開かれていた。 音楽が鳴り響く中、観客のひとりが―― なんと、フレアガンを天井に向かって撃ったんだ。 火花が走り、瞬く間に火が回った。 カジノの中は、黒い煙とパニックに包まれた。 僕たちは湖に向かって逃げた。 振り返ると、カジノの建物から煙が立ちのぼり、 空を焦がしていた。 「水の上に煙が……空に炎が……」 モントルーの人たちは必死に消火活動をしていたけれど、 あの場所はもう使えなかった。 僕たちのレコーディング計画も、そこで消えてしまったかに思えた。 でも、諦めなかった。 ホテルや古びたレストラン、あちこち探しまわり、 ついに見つけたんだ。 閉鎖された古いホテル、グラン・ホテル。 冬の間は誰も泊まらないその建物に、 僕たちは機材を持ち込み、壁に毛布を貼りつけて、 即席のスタジオを作った。 寒かったし、音も決して良くはなかったけれど、 僕たちは演奏し、録音した。 あの夜、湖の上にたなびいた煙―― あの火事の光景が、 やがて僕たちの曲になった。 『Smoke on the Water』―― ...